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「過重労働」の基準となる時間とは?~長時間労働との違いも解説~

2022.11.11  更新:2022.11.11 「過重労働」の基準となる時間とは?~長時間労働との違いも解説~

近年とくに注目されている社会問題のひとつが「過重労働」です。
「ブラック企業」という言葉も一般的になり、心身ともに疲弊した従業員が自殺するというニュースを目にすることも珍しくありません。

過重労働そのものは昔からありましたが、近年は「働き方改革」をはじめ、労働に関する法律が改正されるなど、過重労働をなくそうという動きは社会的に高まっています。

しかし、過重労働が完全になくなるのは難しいと言わざるを得ません。

今回は過重労働をテーマに、過重労働となる基準、なくならない理由、そして企業、個人が取り組むべき対策方法を紹介します。

過重労働となる基準とは?

労働時間の増加、労働環境におけるストレスにより、身体的・精神的に強い負荷がかかる労働を「過重労働」といいます。

しかし、過重労働に明確な定義はありません。なので、「週○○時間以上の労働は過重労働になる」といった基準もないのです。

過重労働=長時間労働ではない

過重労働と長時間労働は混同して使われることがありますが、両者は違います。
極端な話、どれだけ長時間働いても、心身ともに健康であれば過重労働にはなりません。とはいえ、長時間労働が過重労働の要因となっているのは明白です。

長時間労働にも明確な基準はありませんが、労働基準法によって定められている労働時間の上限「1日8時間、週40時間」を超えるもの、または時間外時間が「月45時間、年360時間」を超えるものは長時間労働とみなされます。

ちなみに、「1日8時間、週40時間以内」の法定労働時間を超えて働かせる場合は、企業は「時間外労働休日労働協定届(36協定)」を締結して労度基準監督署へ届出しなければいけません。また、時間外労働が「月45時間、年360時間」を超える場合は「特別条項付き36協定」を締結する必要があります。

時間外・休日労働が月100時間を超える労働は完全アウト

「特別条項付き36協定」を締結して、時間外労働時間の上限を引き上げたとしても、月に100時間を超える労働外労働(休日労働含む)は禁止されています。厚生労働省が月に100時間を超える時間外・休日労働を「過労死ライン」として定めているからです。

同様に、下記も禁止されています。

  • 2ヶ月~6ヶ月に渡っての月平均が80時間を超える時間外労働(休日労働含む)
  • 1年間に720時間以上の時間外労働

上記に該当する労働は長時間労働であることはもちろん、過重労働とみなされます。 この上限を守らなかった企業は、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が課される恐れがあります。

「時間外労働」には2種類ある

時間外労働とは、ザックリ「定められた時間を超える労働」を指しますが、「法定労働時間」と「所定労働時間」の2種類あります。

法定労働時間・・・法律によって定められた労働時間
所定労働時間・・・企業によって定められた労働時間

法定労働時間は「1日8時間、週40時間以内」と定められています。対して、所定労働時間はそれぞれの企業が雇用者との契約によって定めた労働時間なので、必ずしも法定労働時間と一致するわけではありません。

つまり、所定労働時間が法定労働時間より短い場合は法定労働時間内であったとしても割増賃金が支払われる(契約条件による)ので、該当する方は確認するようにしましょう。

時間外労働というと、法定労働時間外を指して使われることが一般的ではありますが、所定労働時間外の労働も立派な「時間外労働」であることを覚えておきましょう。

時間外労働と休日労働は区別して扱われる

労働基準法により、法定休日は「週1日以上あるいは4週間で4日以上」と定められています。そして、法律上では休日労働は時間外労働とは区別して扱われます。

つまり、法定休日が日曜日の場合に、日曜日に10時間働いたとしても時間外労働には含まれないということです。

先ほど紹介した「特別条項付き36協定」の上限をみても分かるように、休日労働が含まれるものとそうでないものがある点には注意しましょう。

休憩時間は労働時間にカウントされない

「1週40時間」や「1日8時間」といった法定労働時間は、休憩時間を除いてカウントした時間が対象となります。

また、休憩時間は労働時間が6時間を超える場合においては45分以上、8時間を超える場合においては1時間以上の休憩時間を与えなければならないと法律で定められているので、上記が守られていない場合は過重労働とみなされることがあります。

過重労働の基準時間一覧

ここまで労働に関する様々な時間について言及してきたので、今一度まとめておきましょう。

法定労働時間 1日8時間、週40時間
時間外労働の上限時間 月45時間、年360時間
時間外労働の上限時間
(特別条項付き36協定の場合)
  • 月100時間
  • 2ヶ月~6ヶ月に渡っての月平均が80時間
  • 年720時間
法定休日 週1日以上あるいは4週間で4日以上
休憩時間 6時間を超える場合においては45分以上、8時間を超える場合においては1時間以上

上記を超える場合(休憩時間は超えない場合)は過重労働になり得ると考えていいでしょう。

過重労働は企業&従業員の両者にとってメリットなし

過重労働は働く人にとってはもちろん、企業にとってもメリットはありません。それぞれにおけるデメリット(リスク)を紹介します。

企業側のリスク

リスク① 生産性の低下

過重労働の環境下では、労働効率は上がりません。労働効率が上がらないために、長く働くことで仕事量をこなすという悪循環にも陥ってしまいます。

また過重労働によって健康を害して休職する従業員が多発することも想定されます。

リスク② 人材不足

過重労働は長く続けられるものではないので、過重労働を強いられた従業員は離職を考えます。

また、過重労働は最悪の場合、過労死や自殺を招きます。その場合、多額の賠償請求が発生するだけでなく、企業のイメージダウンにも繋がるため、その後の人材確保も難しくなります。

リスク③ 法的な罰則を受ける

法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超える労働は労働基準法違反となり、「6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金」の刑事罰を受けることがあります。

法定労働時間外の労働をさせる場合は、36協定の締結はもちろんのこと、法定労働時間内にこなせる適切な仕事量を従業員に課すように心掛けましょう。

個人(従業員)側のリスク

過重労働による働く側のリスクには次のようなものがあります。

リスク① 疲労の増大

慢性的な長時間労働は、心身ともに疲労が蓄積します。
疲労が蓄積した状態で働くことは、効率が上がらないのは当然として、働く意欲もそがれてしまいます。

リスク② ストレスの増大

疲労の増大に付随するものでもありますが、過重労働はストレスの増大にも繋がります。 過重労働は労働時間内だけでなく、日々の睡眠、食事にも悪影響を及ぼすため、ストレスを解消することは難しく、確実に増大していきます。

ストレスが増大した結果、うつ病などの精神疾患を患う可能性が高まります。

過労死・自殺

心身疲労の増大、ストレスの増大は最悪の場合、過労死や自殺を招きます。
過労死や自殺に追い込まれる前に、上司や職場の仲間に相談するなどして労働環境の改善に取り組むこと、その職場において改善が難しい場合は転職を検討しましょう。

過重労働がなくならない理由

厚生労働省によると、2019年における週労働時間が40時間以上の従業員は全体の18.3%であり、主要先進国の中では日本が最も高い数値となっています。

出典:厚生労働省「令和2年版過労死等防止対策白書

このように、日本において長い労働時間を課される、過重労働がなくならない理由を考えていきましょう。

長時間労働を美徳する企業文化

日本では高度経済成長期における「企業戦士」に代表されるような、企業のため骨身削って働く人を良しとする、評価するという文化があります。現在は多様な働き方が推奨されており、骨身を削るような働き方は“時代遅れ”ともいえますが、根強く残っているのは事実です。

個々人がこのような価値観を持たないことはもちろん、企業側もそれを強制しない文化形成、仕組み作りが必須です。

人員不足

労働人口の減少は、社会全体の問題ともなっています。
人員不足から過剰な仕事量をひとりの従業員に押し付ける、押し付けざるを得ない状況に陥っている企業も少なくありません。仕事量に見合った適切な人員を確保・配置することが何よりも重要です。

マネージャーの意識、管理不足

過重労働は、雇用主である企業の責任でもありますが、現場の近くで監督するマネージャーの責任でもあります。

マネージャーが長時間働くことを良しとするような価値観を持っていないか、また持っていなかったとしても個人の仕事量をしっかりと管理できていなければ、過重労働になる可能性はあります。

マネージャーがチームメンバーのタスク管理を徹底することが過重労働防止の第一歩といえるでしょう。

過重労働をなくすための対策~企業&個人が今すぐできること~

最後に過重労働をなくすための対策を企業、個人の両面から解説します。

企業ができる対策

文化の再構築

先述したように「長時間働く人を評価する」といった文化は過重労働につながります。表立って掲げるような企業はないでしょうが、そういった雰囲気、伝統になっているケースは少なくありません。

慢性的に長時間労働が当たり前になっている企業は、抜本的な意識改革、文化の再構築が必要といえるでしょう。

人材確保・採用

1人が週40時間以内でこなせない仕事量であれば、人材を追加しなければなりません。

人件費削減のために少数の従業員に膨大な仕事量を課している企業も少なくありませんが、過重労働になると生産性が低下するだけでなく、残量手当も発生するので結果として人件費は増加します。新規人材を追加して、その分人件費が上がったとしても、生産性が上がり、結果として利益が増えることも想定されます。

従業員の健康、企業の利益の両面にとって、適切な人員確保はプラスの効果をもたらすでしょう。

有給休暇の取得推進

労働基準法第39条では、全労働日の8割以上出勤した一般の労働者に対して、10日の有給休暇を与えることが義務付けられています。

有給休暇制度がないのはもってのほか(罰則の対象となる)ですが、過重労働を強いている企業では、有給休暇を取りづらい雰囲気になっていることは少なくありません。膨大な仕事量があるために、有給休暇を取ることに罪悪感を持つ従業員が多いのです。

有給休暇は労働者の権利です。従業員には期限内に全て消化してもらえるように有給休暇を取りやすい環境を作りましょう。

勤怠管理システムの導入

過重労働のリスク対策として、「正確な勤怠管理」は欠かせません。
しかし、従業員の数が多い企業では全社員の労働時間を正確に把握することは不可能に近いといえます。

近年では、長時間労働対策のために「勤怠管理システム」の導入が進んでいます。勤怠管理システムは、従業員の出退勤時間を正確に管理できるだけなく、それまで人事がおこなっていたデータの入出力、計算作業も自動で行ってくれるので業務の効率化にも繋がります。

勤怠管理システムは導入コスト、機能も様々なので、自社に合ったものを吟味するようにしましょう。

従業員の健康チェック

2014年に「労働安全衛生法」が改正され、労働者が50人以上いる事業所では、毎年1回、全ての労働者に対してストレスチェックの実施が義務付けられました。ストレス状態は自身では分からないことも多いため、メンタルヘルスの不調を未然に防ぐための制度です。

ストレスチェックだけなく、月に1度は従業員と管理者(上司)が面談する機会を設けるなど、定期的に従業員の健康チェックを行うようにしましょう。

ストレスチェックについて詳しくは「労働安全衛生法改正によるストレスチェック実施義務と労働契約法による安全配慮義務について」で解説しています。

個人ができる対策

上司・会社に相談する

過重労働により、心身の疲労を感じるようになった場合は、すぐに上司や会社の人事などに相談しましょう。自身の現状を正確に伝えて、配置転換、労働条件の見直しを検討してもらいましょう。

公的機関に連絡する

過重労働を強いられる状況において、直接上司や会社に相談できない方も多いでしょう。その場合は、次のような公的機関(窓口)に相談しましょう。

労働相談ホットラインは、全国に拠点があるため、面談での相談も可能です。

弁護士に相談する

先の相談窓口では、専門的なアドバイスを受けることはできますが、会社と交渉するとなると弁護士への相談がおすすめです。とくに長時間労働による未払い残業代、慰謝料の請求が必要な場合は弁護士に相談しましょう。

ストレスチェックを実施

過重労働による疲労、ストレスの蓄積は気付かない間に進行しています。
今現在は働ける状態であったとしても、健康チェックは定期的に行うようにしましょう。先述したストレスチェックは個人でも受けることができるので、ぜひお試しください。

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